歯周病治療
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歯周病とは
「歯周病」は、一昔前は「歯槽膿漏」と呼ばれることが多かったのですが、現在では「歯周病」という呼び方が一般的になりました。
「歯周病」とはいったいどのような病気なのでしょうか?
一般には、歯周病は「歯茎の病気」と考えていらっしゃる方が大半と思われます。私がこれまで治療を行ってきた患者さんでも、歯周病は「歯茎の病気」とお答えになる方が大半でした。
しかし、実際の「歯周病」は歯茎の病気というよりは、歯を支えている骨(歯槽骨)が溶けてしまう病気なのです。
確かに、「歯周病」の初期段階として「歯肉炎」というものがあります。この段階は歯茎が炎症を起こしている状態です。歯磨き時に出血したり、歯茎がムズムズしたりしますが、歯槽骨は溶けてはいません。
初期段階では気にならない程度の症状しか現れないため、気がついた時には歯を支えている歯槽骨が溶けて、歯がグラグラと揺れ動くようになってしまっていることも多いのです。そうなってしまうと、抜歯以外の手段がないことも多々あります。
統計によれば、40歳を過ぎてから歯を失う(抜歯になる)最大の原因はこの歯周病です。
日本国内では、30歳以上の約8割が歯周病だと言われています。
ちなみに、2001年の「ギネスブック」では
「全世界で蔓延している病気は歯周病である。地球上を見渡してもこの病気に冒されていない人間は数えるほどしかいない」
と掲載されたほどです。
つまり、世界で最も罹患数の多い病は「歯周病」なのです。
歯周病はとてもやっかいな病気です。
痛みなどの自覚症状がほとんどありません。そのため、気が付いた時にはすでに手遅れになってしまっていることが多いのです。
多くの患者さんは、歯がグラグラする段階になってからようやく危機感を覚え、歯科医院へ駆け込みますが、残念ながら、この段階では歯を支えている骨(歯槽骨)のほとんどが溶かされてしまっています。歯槽骨を、元通りの健康な状態にすることは現在の最先端技術を用いても非常に困難です。
このような場合、原因を探りながら「現在よりも進行しないようにし、現状を維持していく」ことが、歯周病治療の目標となります。
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歯周病の原因
「歯周病も、虫歯と同様に、特殊な細菌により引き起こされる「感染症」です。
歯周病を引き起こす細菌のかたまりがプラーク(歯垢)と呼ばれるものです。プラークが石灰化して、硬くなったものが歯石と呼ばれます。
したがって、歯周病の最大の予防は、歯の周囲にプラーク(歯垢)や歯石がついていない状態にしておくことです。
プラークは歯ブラシで落とすことが可能ですが、歯石はその名の通り、石のように硬く、歯や根にしっかりとこびりついているため、歯ブラシでは落とすことができません。歯石を取るには歯科医院で特殊な器具を使い、取り除くしかありません。
プラークと歯垢以外にも、「歯ぎしり、くいしばりなど歯にかかる過大な力」「ストレス」「喫煙」のほか、「糖尿病」のような全身的な疾患も、歯周病の大きなリスクになります。
特に、プラーク(歯垢)と喫煙(電子タバコを含む)は、最も注意が必要です。
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歯周組織の再生療法
初期段階の歯周病であれば、歯科医院でのクリーニング(PMTC)や歯石除去などで、歯や歯の周りを清潔に保つことで、悪化を防止できます。
しかし、炎症が歯肉の奥深くまで進行し、歯周組織の破壊が進行した場合には、歯周組織を回復させるための手術が必要になります。
手術法としては、GTR(Guided Tissue Regeneration)法とエムドゲイン法があります。
GTR法は、歯を支えている骨(歯槽骨)が消失した部分に、医療用のゴアテックスの皮膜を患部に設置し、骨の再生を試みる治療法です。
この治療法は、歯肉の下にゴアテックスの皮膜をはさんで縫合するため、欧米人に比べて歯肉が薄いアジア系の人種の場合、手術が難しくなるのが難点です。また、術後数日したあとで、設置した皮膜が口腔内に露出してしまうトラブルが起こる場合があります。当院ではGTR法は実施していません、
GTR法とは別に、幼弱な豚の歯の芽(歯胚)から抽出したタンパク質の1種で、「エムドゲイン」という商品名で呼ばれている、エナメルマトリックスデリバティブと呼ばれている治療法もあります。
スウェーデンのビオラ社で開発・生産され、世界40カ国以上で使用されており、日本国内でも厚生労働省の承認がなされています。
幼少期に歯が生えてくる時と同じ環境を作りだすことにより、歯根の表面のセメント質を再生させながら、骨を再生させることができます。
エムドゲイン法は、歯肉を切開して、歯の根に付着した汚れを徹底的に除去してから、酸処理を行い、「エムドゲイン」を歯の根に塗布して縫合するという治療法です。
この方法は、GTR法と比べ、比較的簡単に手術が終わります。使用した「エムドゲイン」は骨の再生を促しながら吸収されていくので、薬剤を取り除くための手術も必要ありません。
しかし、使用する「エムドゲイン」がゲル状であることから、再生させたい部分の骨量のコントロールが難しく、適応となる症例はGTR法と比べやや狭いのが欠点といえます。
どちらの再生療法も安全性・効果ともに高いのですが、再生できる骨量には限界があるため、高度に進行した歯周病は適応にならないのが現状です。
このような難しい歯周病の再生療法にも、マイクロスコープは大いに役立ちます。
歯周病に侵されている歯茎と骨の状態を、拡大することでよく観察することが出来、最小限の侵襲で再生療法を行うことが可能です。